「建物はいいけど、(商売をするなら)場所はここではないよ、清水さん!」

 八ケ岳セカンドベース(集いの山荘)に半ば強引に訪れた、以前から親交がある知人の不動産業者が上から目線で開口一番に放った言葉である。
 別荘建築を本当にやるなら軽井沢が最も旬でお薦めだということを、少しかじった程度の知識にもかかわらず言いたかったのだろう。
 話の中身は個別な経験談に終始していた。今思うと「場所はここではない」という言葉だけが記憶の深いところにまで刻まれていたのだろう。とても不思議である。

 そもそも八ケ岳山麓の原村にセカンドベースを建築したのには別の理由があった。
 まずは北海道並みの寒冷地において仕事で培ってきた温熱環境のスキルを試したかった。東京のような温暖地で断熱や温熱環境を説いてもすぐに壁にぶつかってしまう。
 家を建てる建て主側の立場で考えれば、折角手に入れた土地に暮らしに見合った間取りと規模の建物を創ることが最重要課題であり、こちらが考えていることの優先順位はグッと低くなる。
 それをわかっているからこそ、当時は会社として別荘建築事業などに打って出るつもりも無く、会社とは切り離して僕個人としてのプロジェクトとして決断したのだった。

 また、八ケ岳を選んだのは、僕の出身地が北海道旭川であることにも関係がある。
 空気が澄み切った季節になると、頂が雪に覆われた大雪山連峰を見ることができ、車で30分も走れば、連峰をバックに小高い丘が不規則に連続した景色を堪能できる美瑛や富良野があり、四季折々の楽しみを運んでくれるような、そんな土地柄だった。
 八ケ岳は小ぶりだが、大雪山連峰をバックにした景色に何となく似ていた。

(つづく)
2019/08/02(金) 10:14 清水康弘より PERMALINK COM(0)

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